数奇な人生を生き抜いた、一人の女性「千姫様」

平岩弓枝先生の歴史小説です。 主人公は徳川家康の孫娘で、豊臣秀頼の正妻であった千姫。 大阪落城の場面から物語が始まり、千姫が再縁し、亡くなるまでの後半生を描いています。 千姫の侍女である「三帆」という女性の目を通して、彼女の激動の人生が描かれます。 姑や夫を失った大阪の戦い、江戸へ戻る最中に出会った、初めての恋の相手・本田忠刻。彼との恋を実らせ、再縁し、子宝に恵まれるも、思いがけない暗雲が忍び寄ってきて……。 豊臣家重臣の娘であり、密かに忠刻へ想いを寄せる三帆の胸には、千姫への複雑な愛憎があります。 そこ... Read More

カズオ・イシグロ『日の名残り』は古本価格も値崩れしていないベストセラー

ノベール文学賞受賞で話題沸騰のカズオ・イシグロ。何冊か読んでいましたが、その中でも大好きな『日の名残り』を再読しました。 20世紀前半から中盤に、イギリスのダーリントン卿の元で執事を務めたスティーブンスが旅の道中で過去を術懐する物語です。思い出話もさることながら、イギリスの風景描写も素晴らしいです。 この小説ではスティーブンスの毅然とした執事の仕事ぶりに唸ってしまいます。 父から受け継がれた執事としての資質もあるのでしょうが、執事たるものこうあるべきという確固たる信念に胸を打たれます。 主人への忠義心もた... Read More

ゴーン・ガール 上・下

映画にもなったベストセラーミステリーです。 アメリカの田舎町で起きた失踪事件から話しが始まりますが、話しが進むにつれてどんどん引き込まれて行き、最後の展開とその後の結末までどきどきしながら読み終わりました。 主人公のニック(夫)視点のはなしと、失踪するエイミー(妻)視点のはなしが交互に時間差で綴られていきます。 エイミーが失踪することで警察の捜索がはじまり、それによってマスコミに注目され、世間でもニックが犯人なのかそうでないのかという論争が巻き起こります。というかほぼ犯人扱いされています。読み手もニックが... Read More

少女の旅と復讐「ベティ・ザ・キッド」

本作は、「魔術士オーフェン」で有名な秋田禎信先生の小説です。 一応ライトノベルですが、いざ読んでみると、全く軽くないのが、秋田先生らしいところ。 むしろ、どこまでも非情で容赦ない世界が、淡々と書かれています。そして、その中にある、小さいけれど確かな希望も。 舞台は、西部劇を思わせる砂漠の世界。 若いけれど腕利きの賞金稼ぎ・キッドの正体は、十七歳の少女ベティ。 彼女は一年前、保安官の父親殺しの濡れ衣を着せられ、逃亡していました。男装し正体を隠して、父の仇ロングストライドを追っています。 彼女を影のようにサポ... Read More

宵山の小冒険「聖なる怠け者の冒険」

本作は、森見登美彦先生の長編小説です。 元は新聞の連載小説でしたが、単行本化の際、大幅に書き直し、ほぼ新作になりました。 舞台は京都、時は宵山祭りの朝。 主人公の小和田くんは、新米社会人。静謐を愛し、のんびりするのが大好きな彼は、なぜか正義の怪人・ぽんぽこ仮面から、跡継ぎになるよう迫られます。 このぽんぽこ仮面、ペラペラの狸のお面に、黒いマントと怪しい外見ですが、困っている人を助ける正義の怪人。 彼の正体を探る探偵助手の玉川さんや、怪人を追う謎の組織。 小和田くんの先輩や上司も巻き込んで、ぽんぽこ仮面の逃... Read More

「人格転移の殺人」は映画転校生風味+ミステリです。

SFを絡めたミステリーの第一人者 西澤保彦先生の「人格転移の殺人」は映画「転校生」のパターンとミステリーをかけあわせた小説です。 舞台はアメリカであり、古典的な入れ替わりといったSF仕立てのストーリーをミステリーに料理されています。 大体の内容として、アメリカの食べ物屋に幾人かのお客が入り急に地震がおこり、建物内に逃げ込みます。 しかし、その建物は人と人との精神を入れ替える装置だったのです。 一度それが起動してしまえば遠く離れていても入れ替わりになるということになっています。 この入れ替わる時間などはラン... Read More

『祝山』で怪異の疑似体験

『祝山』は筆者、加門七海の実体験がベースになっているホラー小説です。 実体験そのままの方は、加門七海のエッセイの方に詳しく載っていますがこちらはあくまでフィクション。それなのに、妙なリアルさがあります。 ある日主人公のホラー小説家、鹿角は友人から相談を持ちかけられる。 肝試しにとある山に訪れてから、周辺で奇妙な事が続くと言うのだ。 次回作に行き詰っていた鹿角は何かの切っ掛けになればと友人とその友人達…肝試しに行ったメンバーからその話を詳しく聞く事になるが。 一人が事故死したのを皮切りに、本格的に怪異に巻き... Read More

小野不由美『残穢』にみる家さがしの怖さ

「怖い話」が書かれた手紙が届く。以前、連載していた小説中で募集していた「怖い話」の一環として送られてきたその手紙を読み進める〈私〉。 久保は、借りている部屋の寝室から奇妙な音がすると訴えていた。まるで「畳の上を掃く様な音」は、年をまたいでも止むことなくし続けていると言う。それどころか「着物の帯のような平たい布」が床を這っていくのを見たと言うのだ。 その記述に既視感を感じた〈私〉は昔、他の読者からもらった「怖い話」の中に同じく「畳の上を掃く様な音」に関する話があった事に気づく。 (2人が遭遇している現象は同... Read More