『ときぐすり』

畠中恵の「まんまこと」シリーズの第4弾です。前作で愛妻お寿ずと娘のお咲を亡くし、腑抜け状態だった主人公の麻之助が、少しずつ再生していく過程が描かれています。

何といっても、両親や、幼馴染の清十郎と吉五郎など、麻之助の周りの人々の優しさが心に沁みます。でもその優しさは、ただただ麻之助を甘やかすものではありません。麻之助が間違った方に進めば、びしっとそれを指摘する厳しさも伴っています。

また麻之助の父が、どんどん麻之助に仕事を任せるのも、彼の回復に役立ったのだと思います。落ち込んでいる時は、何をする気にもなれません。でもだからといって、ただじっとうずくまっていたところで、そこからどこにも行けないのです。無理にでも手を動かし、頭を働かせ、歩き出す。そうすることで、いつしか心が軽くなっていることに気づくはずです。

そうして少しずつ立ち直っていったからこそ、収録作の最後であり、タイトルにもなっている「ときぐすり」において、麻之助は自分に頼ってきた少年に、時という名の薬を与えたいと思うまでになったのでしょう。
この章において、麻之助はちゃんと自分に与えられてきた周りの人々の優しさと、それに助けられたことを自覚しています。だからこそ、今度は周りの人々が優しさを得られるようにしたいと奮闘するのです。
その優しさは、麻之助自身が直接与えるものだけを意味するのではありません。人々がお互いに支えあえるよう、さりげなく導くことで人々が得られるものも含むのです。それが出来るようになった麻之助は、次の町名主として相応しい存在に立派に成長したのだと思います。前にでしゃばるのではなく、さりげなく背後から支配町の人々を支える町名主こそ、人々に求められる存在なのですから。

第5弾を読むのが楽しみです。